泡盛には500年の歴史があり、その製法にはたくさんの特徴がある。
「シー汁浸漬法」という製法もその一つだ。
昭和30年後半までは、どの酒造所でもごく普通に行われていたこの製法は、醸造機器の近代化や製造工程の省力化、生産性の向上、また、微生物衛生管理の徹底など、さまざまな要因が時代の流れと重なり、学問的な研究が行われることなく姿を消したのである。
近年では、酒造所さえも何故シー汁を使用していたのか、はっきりとした理由がわからないままになっていた。
私たちは、この時代の流れに埋もれてしまった製法を見直し、醸造的な解明を進めると共に古式泡盛製法を復活させるべく研究に着手した。
現在、泡盛の製法は、原料である米を洗い、水に漬け、蒸すという順序となる。しかし、シー汁浸漬法は、原料米を洗わずに15時間から24時間浸漬する。浸漬液は繁殖してくる乳酸菌などの微生物によって酸性状態になり、独特のにおいを発生する液体「シー汁」になる。さらに特異なのは、この浸漬液を廃棄せずに一部取りおきし、次回の浸漬に使用する点である。
ちなみに、シー汁のシーとは、沖縄の方言で「酸」という意味である。沖縄特産にシークヮーサー(ヒラミレモン)があるが、とても酸味が多い。このシークヮーサーの"シー(酸っぱい)"と同じ意味である。
シー汁浸漬とは、乳酸菌やその他微生物による発酵技術である。
古い文献や、研究を進めるにつれ「シー汁浸漬」には、
・原料米(硬質米)が蒸しやすい
・汚染が少ない
・品温の管理がしやすい
等の製造上の特徴が明らかになっていった。
これは、醸造機器が今以上に発達していない過去においては、とても重要かつ特異な工程であったことがわかる。
さらに、研究を重ねることで酒質においての効果がわかってきた。シー汁浸漬による泡盛は、現在の泡盛と酒質が異なり、やわらかな味わいとコクのある甘みを作り出すことがわかった。
これは、シー汁浸漬液の成分が香味に影響するのではなく、シー汁浸漬液に繁殖している微生物によって、原料米の性質が大きく変化することによるものだ。この作用が、製麹、発酵に影響を及ぼすのである。
この研究を元に、シー汁浸漬液中の多種の微生物群が原料米に作用し、発酵工程を経て、香りと味わいに特徴ある泡盛を製造することを実現した。
40年ほど前に姿を消した「シー汁浸漬法」を掘り起こし、画一的な酒質になってしまった現代の泡盛とは一味違った、芳醇な香りと他に類を見ない甘味をもつ、古くて新しい泡盛「昔醸翠古(むかしづくりすいこ)」が誕生した。
発売にあたって、共同研究として指導いただいた東京農業大学・農学博士小泉武夫教授、同農学博士角田潔和教授ならびに、発酵生産科学研究室の学生に心より感謝する。
そして、この技術を生みだした先人の努力と知恵に心より敬意と感謝を捧げます。
泡盛メーカー初の醸造学博士号取得
この「シー汁浸漬」の研究が認められ、沖縄の泡盛メーカとして初めて、弊社熱田和史が博士号
日本醸造協会技術賞授賞
さらに、平成18年10月11日に開催された、(財)日本醸造協会創立100周年記念講演会・平成18年度日本醸造学会大会講演において、弊社大城勤(弊社代表取締役)、熱田和史(製造部研究開発課課長)の両名が、技術賞を授賞。
日本醸造協会技術賞とは、「醸造に関する技術的進歩に貢献したものに授与する」とあり、今回の授賞は、「古式「シー汁浸漬法」の醸造学的意義の解明と泡盛の個性化への応用に関する研究」が泡盛醸造技術の進歩発展に寄与すると認められてのことである。
過去の事柄や古典などに十分習熟し、そこからその時代にふさわしい新しい意味を発見する。 まさに「昔醸 翠古」は温故知新の力によって生まれた新しい泡盛。脈々と伝えられてきた先人たちの技と魂には、新しい時代を切り拓く力が秘められている。
昔醸翠古 記事
琉球新報 2006年3月31日
沖縄タイムス 2006年3月31日
醸造協会技術賞 記事
琉球新報 2006年12月1日
沖縄タイムス 2006年12月1日
博士号取得 記事
宮古毎日新聞 2006年4月29日
沖縄タイムス 2006年4月29日
琉球新報 2006年4月28日